パソコンを最低限使える人かチェックする試験Yuhei Nakasaka's Blog

パソコンを最低限使える人かチェックする試験

パソコンが使えると言った場合、どのレベルまでのスキルを持っていれば使えると言えるのだろうか。ブラウザを開いてググったりできれば使えると言えるかもしれないし、もしかすると MOS 関連の資格を持っていないと使えると言えないかもしれない。日常的に PC を使ってブログを書いたりゲームを遊んでいる人は自分はパソコンが使える、と言うだろう。まぁこんな感じでパソコンが使えるといえるかどうかの基準は結構曖昧なものである。

しかしながらもし自分が自社の採用担当で「最低限パソコンが使える人を採ってほしい」とクソアバウトな指令を与えられた場合には自分なりに何かしらの基準を設けなければいけない。採用した人材がどの部門で働くのかによって必要とされるスキルは違うだろうからまずはどこの部署に配属される人材なのかを整理するところから始めるだろうか。そして事務職系だったり営業だったり社内オフィス系だったりとにかく何かしらの部署であることが判明し、具体的に必要なスキルなんかがわかるはずだ。ところが今回は総合職というこれまた曖昧な人材の採用を行うということが分かった。どうやら上司から言われた「最低限パソコンが使える人を採ってほしい」という曖昧な指令を満たす人材をどうにかしてふるいにかけるしかなさそうだ。

こんなシチュエーションがあった場合(実際はこんなことないと思うけど)に「最低限パソコンが使える人」をふるいにかける試験について考えてみた。

それが下記である(通称: 所在地抽出試験)。

「ここに大小様々な企業のホームページの URL が 20 社分ある。これらの URL を頼りにして各企業の所在地の住所をエクセルもしくは Google SpreadSheet でまとめて提出してください。」

これだけだと、一見誰でも解ける簡単なタスクであると思うかもしれない。しかし次の1文を加えることでこのタスクの難易度は一気に上がる。

「尚、制限時間は 25 分です。」

25 分かけて 20 社分の HP の URL から所在地を調べてエクセルにまとめる。エクセルにまとめる諸準備などの時間も含めると 1 社あたりに割ける時間は約 1 分である。

基本的なタイピング速度・各種ショートカットコマンドの使い方・ブラウザの使い方・Web サイトの回遊力・表計算ソフトの使い方など当たり前のことでまごつくような人は 1 社 1 分だとおそらく間に合わない。

「URL にアクセスして住所が書いてある部分を見つけてコピペすればいいだけだろ?」と思うかもしれないが、実は企業の HP の所在地がどこに書いてあるか見つけるのは案外難しい。なぜかというと HP のどこに所在地を書くのか?やどのような形式で住所を書くのか?などに決まったルールはないからだ。ある企業は企業概要というメニューの先の所在地という欄に記載しているかもしれないし、ある企業はトップページのフッターに記載しているかもしれない。たどり着いた HP から素早く情報を吸い出せるかどうかは日頃からどれだけネットサーフィンをしているかという地力が試される。cmd+f でサイトの全文検索ができることすら知らない人も意外と多い。

「そうはいってもこのくらいのネットサーフィン力は自分にはあるよ。1 社あたり 1 分なんて難しくないっすわ。」というネット常用民もいるだろう。ところが実際やってみると中々難しいことがわかる。というのも例えばある企業の HP ではサイト全体のコピペが許可されていないという場合がある。その際は単純にコピペすることができないだろう。コピペ以外の術を知らなければ住所を丁寧に手打ちで入力する羽目になる(短い場合はそれでも良いが)。回避方法を知っている人は cmd+option+i などで開発者ツールを開いて HTML から直接コピーすることができる。だが開発者ツールを弄れる人はどれくらいいるだろうか。

「俺はプログラマーだ。こんなブルシットジョブなんてプログラミングで駆逐してやるぜ。」という考えが浮かんでくる人もいるかもしれないがそれも良案ではない。というのもまず、先にも述べた通り所在地の記載方法にルールはないのでプログラム化するのが面倒だ(無理ではない)。所在地の記載について、そのルールを各社のサイトにアクセスし学んでいるくらいならその都度コピペしてしまった方が早い。もしこれが 200 社とか 2000 社に対して同様のタスクをこなさないといけないのであればコード化してしまった方がトータルの時間は短くなるだろうが 20 社なら手動でやった方が多分早い。それに例えばある企業のサイトでは所在地部分が画像で出来ているかもしれない。その場合は単純なテキストマイニングでは抽出できないので OCR などを使う必要がある。20 社程度であればプログラミングで解決するのはやや大袈裟であろう。

他にも、とある HP ではそもそも所在地の記載がなかったりする。そういったサイトはエクセルにどう記載すればいいのだろうか?と受験者を戸惑わせるだろう。そういうサイトに対してどう対処するかもある意味試験の一部である。その企業の部分だけ空欄にしておくのもありだし、所在地不明と書いておいてくれるならいくらか親切かもしれない。

そもそも URL にアクセスせずに Google で検索してしまった方が早い、みたいな可能性もある。これもまたパソコンが使える人ならではの技法なのでアリだ。しかし HP に載っている所在地と異なる場合があるので結局 HP の該当箇所をチェックする必要はある。所在地が本社と支店で複数あるパターンなどは本社ではなく支店の方が検索結果に出てくる場合もあるので注意が必要だ。

このように企業の所在地をエクセルでまとめるだけの簡単なお仕事であってもハマりどころがそれなりにあり、ある程度のパソコンの習熟度が必要になる。テスト時間は 20~30 分で済むので手軽にふるいにかける試験としては中々アリではないだろうか。

今回は 20 社としたがこれを 10 社などに減らしてテスト時間を減らすのも良い。さらに「採用担当者に適宜疑問があれば質問して良いことにする」というルールを加えると、実際にその人が困難にぶつかった時にうまくヘルプを出せる人間なのか?みたいなこともわかるかもしれない。

「パソコンが使えるかどうかの試験というよりはネットサーフィン力みたいなものしか測れないじゃろ!」という意見もありそうだが、この程度のことが出来ないのにさらに難しい各種ツールの使い方を効率よく学べるわけがない。最低限押さえておくべきパソコン力の土台みたいなスキルを持ち合わせているかチェックする試験としてはこれで十分だろう。

ちなみにこの試験には元ネタがある。今年の初めに某所の若者が所用でアニメスタジオの HP の URL(約 150 社分)から所在地を抜き出してエクセルにまとめるというタスクを何やらぶつぶつ言いながら作業をしていたのでそれを横から眺めていたところ、タブ移動や window 切り替えやコピペ作業をキーボードでやらずに全てマウスでぽちぽちやっていたり、サイト内検索を知らなかったなど基本的なことが意外と出来ていないことが判明した。ある程度整理されたサイトであっても目 grep で所在地を見つけ出すのは時間がかかるので cmd+f で"所"や"〒"で検索する術を覚え、一発で移動できることに感動したりしていた、というようなことがあった。

似たような話だとある長い文章における重複箇所や語尾の変換などをメモ帳で一つ一つ修正していたのでテキストエディタ(その時は VSCode)を教えて一括変換や複数箇所同時修正などの方法を教えたところ驚愕されたというのもあった。IT 業界だとまぁ大体この辺は周知のスキルだと思うが、それ以外の業界ではまだまだ PC を使いこなせていないのかもなと思った次第。DX という言葉がバズワード化して久しいがそれ以前にこういう基本的な PC 作業の省力化スキルをみたいなものを広めるのも大切だな〜などと思うなどした。

最後に例のアニメスタジオの HP の URL をまとめたものを置いておくので好きに使ってください。

ちなみに上場企業(2022 年)の URL 一覧と CSV をまとめてくれているサイトがあったのでこれも貼っておく。

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